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「四月になれば彼女は」を観てきた [ムダ知識]

「四月になれば彼女は」をみてきた。

ひさしぶりに映画でもみるか、と思った。
で、なにをみるか。

TOHOシネマズの上映スケジュールを見る。
「四月になれば彼女は」(APRIL COME SHE WILL)
というタイトルの作品が気になった。
サイモンとガーファンクルの曲である。
私らの世代にとっては、なつかしい。

予告編を見てみる。
まあ、ありきたりの恋愛映画であるが、
主人公が持っているカメラに目が行った。

fm.jpg

「あ、ニコンFEか、ニコンFMだ。」

私はニコンFEのユーザーだったので、すぐにわかった。
Webで調べてみると、映画に登場したのはニコンFMだとか。
なんで、フィルムカメラなんだろう?

それだけの理由で、この映画をみることに決めた。
中高年のおっさんがひとりで恋愛映画をみに行くと
怪しまれそうなので、家内といっしょにみに行った。


ニコンFMは、1977年に発売された、ニコンの中級一眼レフ
である。ほぼ同時期に発売されたニコンFEと、
外観は同一であるが、ニコンFMはメカニカル・シャッター、
ニコンFEは電子シャッターという違いがある。

この時代のニコンの人気機種というと、
なんといっても、ニコンF3である。
ジウジアーロデザインで、20年以上の長きにわたり
作り続けられた。その後のニコンFシリーズに
大きな影響をあたえた名機である。

映画に使うのであれば、F3だろー、と思ったのであるが、
主人公が使っていたのは、なぜか、ニコンFMであった。
そのあたりに、私はかるい違和感をおぼえたのだが、
主人公は大学の写真部員という設定だったので、
大学生でも買える価格帯のFMにしたのかもしれない。
ちなみに、主人公の大学時代の恋人が使用していたのは、
ペンタックスMXである。

いずれにしても、この映画、写真というものが
非常に大きな役割を果たしている。
どんなものを撮りたいのか? という主人公の
問いかけに、彼女は答える。
「雨の匂いとか、街の熱気とか、悲しい音楽とか、
嬉しそうな声とか、誰かを好きな気持ちとか、
そういうものを撮りたい。」

そんなもん、写らへんやんか!

というツッコミはともかく、
もし、そういったものを記録できるとしたら、
やはり、デジタルカメラではなく、銀塩フィルムを
使ったカメラなのだろうな。

しかしながら、長年にわたり、銀塩フィルムを使った
写真をとりつづけている私としては、
どうも、映画の表現に疑問を感じる。
もっとはっきり言うと、ツメがあまいのである。

まず、大学の写真部、および主人公の恋人の父親が
暗室でカラーのプリントをやっていること。
カラープリントは、そんなに簡単ではないから。

30℃くらいの高温処理と厳密な温度管理が必要なので、
素人が自分でやって、いい結果を出すのはむずかしい。
だから、アマチュアでモノクロのプリントをする人は、
いまでもそれなりにいるけれど、カラープリントを
自分でする人は、ほとんどいないのである。

それと、かつての恋人のペンタックスMXから取り出した
コダックのプロ用ネガカラーフィルムであるPORTRAを
自分で現像するシーンについては、
「いやいや、C-41現像が素人にできるわけないだろー。」
と思ってしまうのだ。
C-41現像は、38℃という高温で処理しなければならないうえ、
0.1℃単位での温度管理が要求される。つまり、自動現像機での
処理を前提としている。
何回でもやりなおしがきくプリントならともかく、
カラーフィルムの現像を素人がやることは、
まず、考えられない。
まして、かつての恋人が残した大事なフィルムなのだから。

それと、映画の最後のほうで、主人公の現在の恋人の像が
現像液のなかで浮かびあがってから、
「えっ!」
となってしまうシーンには、強い違和感をおぼえる。
写真を長年やっていると、現像があがってできたネガの段階で、
なにが写っているか、だいたい判別できるようになる。
そういう眼になってしまうのである。
だから、そんなもん、ネガを見たときか、引き伸ばし機に
かけた段階で気づけよ、と思うのである。

ウユニ塩湖などの風景を、コダックのPORTRAで
撮っているのも不自然である。
ふつうは、EKTACROMEなどのリバーサルフィルムと
Eー6現像の組み合わせである。
でないと、あの青は出ないから。


ま、いろいろと、こまかいところを指摘したけれど、
「四月になれば彼女は」は、なかなかいい映画であった。
現代人にとって、恋愛感情を持続させていくのは、
むずかしいことだし、旅に出る理由というのは、
しばしば、過去の自分の想いの確認である。
そういったテーマがよく表現されているな、と思った。

ボリビアのウユニ塩湖、チェコの天文時計塔、
アイスランドのブラックサンドビーチなどの風景もよかった。
サイモンとガーファンクルのファンである私としては、
「四月になれば彼女は」の曲が、どこかで使われているのかな、
と期待したけれど、まあ、違う世界観の作品である。
権利関係の問題もあるから、不可能だったのだろうな。



ということで、今回の記事のまとめであるが、
「四月になれば彼女は」は、ちょっと表現のツメがあまい
ところはあるものの、なかなかいい映画であった。
それだけである。


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