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「旅」という名の女性誌 [旅情報]

かつて、私は日本交通公社出版局 (現JTBパブリッシング㈱)の「旅」
という雑誌を定期購読していた。現在、「旅」は女性誌にリニューアル
されたけれど、旅が好きなオートバイ乗りにとっても、なかなか面白い
雑誌になっていると思う。


「旅」 今月号の表紙
出所:新潮社「旅」のページ
 
 
「旅」は、1924年に創刊された旅行雑誌である。休刊したのは、
戦中・戦後の3年間のみ。およそ80年以上の長きにわたり発行され
続けてきた旅行雑誌の名門である。
内容としては、著名な作家やエッセイスト、画家、音楽家といった
文化人で旅好きな人が、編集部員といっしょに旅をして、
その紀行文を書く、といった感じの記事が多かった。非常に格調高い
内容であり、日本の旅行文化をリードしてきた存在であるといえよう。
 

ところが、バブル崩壊後の90年代はじめに「旅」は迷走を始める。
理由は明確であり、売れなくなってしまったからである。
理由の1つは読者層の高齢化であろう。「旅」の読者層は、
もともと私なんかよりもずっと上の世代だったのだが、そういった
人たちが高齢化するとともに、「旅」から離れて行ってしまったのだ。
まあ、「旅」はどこの図書館にも必ず置いてある雑誌なのだから、
わざわざ買わなくても...といったこともあったのかもしれない。
そのため、「旅」は若返り化をはかった。記事は必ずしも著名な
文化人だけではなく、ライフスタイルアーティストといった、
ワケのわからない人まで登場させ、内容もアウトドアライフとか
鉄道旅行といった方向に振って行った。けれども、アウトドア
ライフが好きな人にとっては「BE-PAL」があるのだし、
鉄道旅行が好きな人にとっては、「鉄道ファン」をはじめとする
さまざまな専門誌がある。この頃の「旅」は試行錯誤の連続で
あったが、そのわりには面白くなく、私はいつしか定期購読を
やめてしまった。
 
 
1年ほど前、図書館に行ったとき、久しぶりに「旅」でも見るか、
と思って雑誌コーナーに行った私は、思わず固まってしまった。
「旅」はリニューアルをはかっており、その表紙には、
「旅という名の女性誌」という言葉が書いてあるのである。
なんと、旅行雑誌の名門「旅」は、女性誌になってしまったのであった。
内容は、女性が行きたいと思うような町や地域に絞っており、
広告もブランドもののアパレルやコスメティック、雑貨などが中心。
かつての「旅」を知る世代としては、まさに魂を売ってしまったのでは
ないかと思うほどの方針転換である。また、そのときは気がつかなかった
のだけど、版元もJTBから新潮社に移っていた。
 
なんと、「旅」は売られてしまったのであった。
(-_-; 

伝統ある雑誌の編集方針を大きく変えたのも、出版社が変わったから
であろう。「旅」のような名門雑誌であっても、存続するためには、
リニューアルをせざるを得なかったのである。
 

いま、出版業界は底のない不況となっており、著名な雑誌もバタバタと
休刊に追い込まれている。そのようななかで、唯一、好調なのが、
女性誌なのである。また、旅行をはじめとするレジャーにお金を使うのも、
いまは主として女性である。そういったことから、対象読者を女性に
絞ったのだろう。広告を獲得する戦略ということもあったのかもしれない。
だから「旅という名の女性誌」なのだろう。
 

で、リニューアルした「旅」であるが、比較的好調のようである。
内容は20代から30代くらいの女性向けではあり、50代の私としては
ちょっとついていけない感じの記事もあるけれど、写真やちょっとした
小さな囲み記事には格調高さが残っており、いい感じの雑誌に
仕上がっていると思う。「旅」というよりも「旅行」といった感じの内容では
あるが、これはこれで、悪くはない。オートバイでツーリングをするのが
好きな者にとっても、ためになる内容となっている。
 

ということで、最近、私は女性誌になった「旅」を愛読している。
私個人の考えではあるが、毎年夏になると北海道特集、あるいは書くネタ
に困ると国産車総合カタログ、といったワンパターンの編集を繰り返す
オートバイ関係の雑誌なんかより、よほど面白いし、ためになると思っている。
 



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