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野間池までの道は遠かった [日本外周自転車の旅]

薩摩半島の西端、野間池(のまいけ)まで自転車で走った。


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枕崎~野間池のコース


2013年11月16日午前8時、私は枕崎市内を自転車で
走っていた。これから、薩摩半島の西端の野間池まで
行こうと思う。枕崎から野間池までは、リアス式海岸
の地形である。たくさんの小さな峠を越えるので、
自転車だときついだろうな。


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枕崎~野間池のプロフィールマップ


枕崎市街を出ると、すぐに登りが始まった。
最初の峠、耳取峠(みみとりとうげ)である。
が、これはあっさりと越えた。
まだまだ、元気だからね。(笑)
峠には、あずまやとベンチのある展望台がある。
天気がよかったので、開聞岳(かいもんだけ)が
きれいに見えた。

耳取峠を越えると、一方的な下りで、すぐに坊津(ぼうのつ)
まで降りる。坊津は中世からの海上交通の要衝であり、
清や琉球との中継貿易で栄えたところである。
現在は周辺の市町村と合併して、南さつま市になっている。

坊津をすぎると、「この先行き止まり」という標識があった。
国道226号線は一本道だとばかり思っていたので、
ちょっと面食らう。
慎重に地図を確認して、右に曲がる。
その先の峠は、標高が約90メートル。
だんだん疲れてきて、越えるのがきつくなってきた。

久志(くし)という、ちょっと大きな集落に出る。
自動販売機で水を買っていると、おじさんが私を見て、
「おっ、おもしろそうなやつが、きよったばい。」
という感じで、話しかけてきた。
鹿児島県人は、基本的にあかるくてオープンな人が多い。
私の自転車の旅について、いろいろと尋ねられた。

久志から先の今藤峠(いまふじとうげ)は急勾配であり、
マジできつかった。勾配は、たぶん10%を超えていると思う。
鹿児島県の道は、概して急勾配が多いのだが、
この区間は極端である。
私は、前のチェーンリング32T、うしろのスプロケット32Tに
落とすまで、追い込まれた。

登り坂におけるペダリングのコツは、ペダルを踏まない
ほうの足を、かるく引き上げるようにして、
体重を抜いてやることである。これは、“引き足”といった
積極的なものではなく、踏む足の力をじゃましないように
するための動作である。自転車ツーリングの経験があさい人は、
往々にして、ペダルを踏まない方の足に体重がかかっていて、
ペダルを踏むのを邪魔しているのである。

もちろん、もっと積極的に、ふともものうしろの筋肉を使って、
ペダルを引き上げるときもトルクをかけるようにすると、
速く走ることができる。プロの選手は、そうやってペダリング
の効率を上げているわけだけど、ふだん、トレーニングを
していない人がそれをやると、あっというまにけいれんをおこす。

やっとの思いで、今藤峠を越えると、秋目(あきめ)という集落に出る。
鑑真(がんじん)が上陸したところである。
753年12月20日のことであった。
密航者のハシリと誤解されそうであるが、
むかしは、中国への留学に生命をかけた日本人、
あるいは、日本との交流に生命をかけた中国人が
たくさんいたのである。現在の日本文化は、
彼らの多くの犠牲の上に成立しているのである。
そのあたりは、「天平の甍(いらか)」という井上靖の小説に詳しい。
がんじん荘という民宿の前で、男の子が紙ヒコーキを飛ばしていた。
それを見ながら、自動販売機で500CCのスポーツドリンクを買い、
1本、のみ干してしまった。

10分ほど休んで、また、登り始める。
はあはあ。息が上がって、苦しい。
なんで、こんなに苦しいのかな、と思った。
「生きているからですよー。」
と、不意に友人の声が聞こえたような気がした。
私は、はっとした。

今年の1月に、友人が亡くなった。
享年54才。私より2才、年下である。
闘病生活は、約2年にわたった。
彼は、私がなにか疑問に思ったことを言うと、
明快でありながら、どこか、突き放したような答え方をした。
いまの私の疑問に対しても、彼ならきっと、そういう答え方
をしただろうな、と思った。
「takさんは、いま、生きているということに対して、
感謝すべきですよ。」
という意味もこめて...。

思えば、私と彼は、戦友のような関係であった。
人生という試練に対して、ずっといっしょに戦ってきた仲間であった。
だから、お互いに決して裏切ることはなかった。
彼の人生は、まだまだ、これからであった。
さぞや、無念だったろう。
人生は往々にして、道半ばで終わる。
そういう現実をまのあたりにして、私はしばらく、
かなり落ち込み、かるい鬱状態になってしまった。
最近になり、ようやく自分のなかで整理ができたのであった。

生きるということは、長い坂道を登り続けるようなものである。
急ぐことはない。
けれど、どんなに苦しくても、走り続けるしかない。
倒れてしまっても、すぐに立ち上がって、走り続けるしかない。
死ぬ、その時まで。

友人のことを思い出しながら、ペダルを踏んでいると、
ようやく、峠にさしかかった。
展望台のようなものがある。
自転車をとめて、そこからの景色を眺めてみる。
眼下に太平洋がひろがっていた。
いい天気で、海は青く澄み切っていた。
「死んだら、こんな美しい景色を見ることはできないんだな。」
と思った。彼にも、この景色を見せたかったな、と思って、
少しだけ、涙が出た。

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峠から見た景色


私は、現在57才。
あと、何年かすれば、私も死ぬ。
それまでのあいだ、できるだけ長く、走り続けて、
きれいな景色を見たい。そう思った。

ちょっと、話がとんだけど、
いま越えた名もない峠が、枕崎~野間池間の最高地点である。
標高は、約160メートルと大したことはない。
けれども、なんどもアップダウンが繰り返されるので、
箱根を越えるよりも疲れるから。
峠の近くに「杜氏(とうじ)の里」という施設があったけど、
登り坂の途中なので、ペダルを踏むのに忙しく、私は素通りした。
けれど、焼酎が好きな方にとっては、
おもしろいところかもしれない。

野間池には、午後1時ごろ着いた。
鰤(ぶり)の飼付け漁で有名なところである。
いまの時期の鰤は、脂がのって美味しそうである。
けれども、自転車旅行中なので、なまものを食べるわけ
にはいかない。途中で走れなくなってしまうと、危険だからだ。
JA南さつまというところで、菓子パンを買って食べた。

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野間池にて



ということで、今回の記事のまとめであるが、
枕崎~野間池の国道226号線は、アップダウンが連続し、
自転車乗りにとっては、非常に厳しいコースであるが、
景色は非常によい。
急ぐならば、国道270号線で加世田(かせだ=南さつま市の中心地)
に出る方が早くてラクだけど、時間があって、もの好きな方ならば、
国道226号線がおすすめである。


野間池で30分ほど休憩して、出発した。その日は日置市(ひおきし)
まで走った。



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