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JR石北本線 白滝~上川間 1日1往復の普通列車に乗った [日本海岸自転車の旅]

遠軽から普通列車に乗って、旭川に出ようとしたのだが。


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遠軽駅にて


2012年10月19日金曜日 午後2時30分ごろ、
私は、JR遠軽駅に着いた。
今回の旅のゴールが遠軽になったのは、たまたまである。
天塩で悪天候のため、1日、足止めを食らってしまって、
ここで終わらざるをえなかったのである。
計画では、網走まで行こう、と思っていたのだが。

けれども、べつに残念ではなかった。
次回は、ここからつづきを始めればいいわけだし、
それに、遠軽から乗車すると、楽しみがひとつあったから。
私は自転車を分解し、輪行袋のなかに入れ、
きっぷ売り場で、「秋の乗り放題パス」を購入。
そして、16時12分発の旭川行き、4626D列車に乗った。

鉄道ファンにとっては常識。
けれども、一般の方は、ほとんどがご存じないと思うけど、
石北本線の遠軽~上川間は、普通列車の数が極端に少ない。
下りは、上川を早朝6時16分に出る4621D列車のみ。
上りは、この遠軽を16時12分に出る4626D列車のみ。
そして、途中の上白滝 (かみしらたき)駅に停まる列車は、
この2本だけである。

1日2本しか、列車が停まらない駅、上白滝。
おそらく、 鉄道で行くことが、日本一むずかしい駅であろう。
石北本線を、特急オホーツクで完乗することは難しくない。
私自身は、1982年の夏に達成している。
けれども、石北本線を普通列車に乗って完乗し、
上白滝に停まることは非常にむずかしく、
もし、やったとしたら、鉄道ファンとして、自慢していいと思う。

こう書くと、鉄道ファンが、いかにバカな人種であるかが、
よくわかるだろう。だから、私は、こういうことは、他人には、
なるべく黙っている。そして、鉄道ファンではなく、ごく普通の旅人
のふりをして、列車に乗っている。で、上白滝駅に着いた瞬間、
心のなかで、ニンマリするのである。


列車は、定刻どおり、16時12分に遠軽を発車。
下白滝、旧白滝、白滝、上白滝と、駅名に白滝のつく駅が4つも続く。
かつては奥白滝という駅もあったが、利用者がほとんどないため、
2001年に廃止されてしまった。
上白滝駅には、日がとっぷりと暮れた、17時08分に到着した。
私は心のなかで、ニンマリした。
列車は、すぐに発車した。


次の上川駅には、18時16分に着く。
つまり、次の駅まで、68分間かかる。
隣の駅に行くのにかかる時間としては、日本一である。
ただし、ずっと走りっぱなしというわけではなく、
途中の上越 (かみこし) 信号所で20分ほど停車し、
下りの特急オホーツクと交換するのだが。

ちなみに、上白滝~上川間は34.0kmあり、
これは、石勝線の新夕張~占冠(しむかっぷ)間の34.3kmについで、
日本で2番目に長い駅間距離である。
上白滝は、「秘境駅へ行こう! 」の著者である牛山隆信氏によると、
秘境駅ランキング29位である。
1日2本しか列車が来ない上白滝が29位とは、少し意外であるが、
ま、上には上がある、ということなのだろう。

秘境駅へ行こう!
http://hp1.cyberstation.ne.jp/hikyoueki/




ということで、今回の記事のまとめであるが、
JR石北本線の白滝~上川間は、普通列車の本数が極端に少なく、
とりわけ、上白滝駅は1日1往復、2本しか列車が停まらない秘境駅である。
また、上白滝~上川間は34.0kmもあり、68分間、駅に停まらない。
なかなか、おもしろい旅ができるから、鉄道ファンでなくても、
機会があれば、乗ってみるのもいいかもしれない。



以下は、今回の旅において、私が遭遇したハプニングについて書く。
読んでも、とくに役に立つわけでも、タメになるわけでもないから、
興味がない方は、とばしてください。(笑)

上白滝を出た列車は、なにもない原生林のなかを、坦々と走った。
自転車で590kmを走ってきて、疲れていた私は、つい、うとうとした。
15分ほど無意識の時間を過ごし、目覚めた私は、異変に気がついた。

列車が進んでいないのである。
時速10kmも出ていない。
けれども、キハ40型気動車のDMH17系180馬力のエンジンは、
はげしく、うなりを上げている。

いったい、どうしたのだろうか。

しばらくすると、列車は完全に停まってしまった。
運転士さんから、車内アナウンスがあり、
「現在、タイヤが空回りしております。」
という短い案内があった。
鉄の車輪のことをタイヤと表現したのは、一般人にもわかるように、
との配慮であろう。が、若干の違和感がある。
それはともかく、いったいどうしたことだろう。
なんらかの原因により、レールと車輪の摩擦が得られず、
登り坂で車輪が空回りしているのだ、ということはわかったが。

列車は、なおも挑戦し続けたが、とうとう、もう諦めましたわ、
という感じで、停まってしまった。そして、また短いアナウンスがあり、
「当列車は、これ以上進めませんので、白滝まで後退します。」
という。

長年、旅人をやっているけれど、こんなの初めてである。
東京で、もし、こんなことがあったら、大騒ぎだろう。
けれど、この列車の乗客は、誰も、なにも言わない。
ていうか、乗客がほとんどいないのである。
私と同じ車両には、JTBの大判時刻表を持った、
明らかに鉄道ファンとみられる乗客が、ひとりいるだけ。
前の車両には、銀色のカメラバッグを持った、
たぶん、これも鉄道ファンとみられる乗客が、ひとりいるだけ。
そして、自転車を持って、「私は鉄道ファンなんかではありません。」
という顔をしているけれど、実は鉄道ファンである私。
その3人だけであった。

つまり、まともな乗客はひとりも
いないのだった。(笑)



運転士さんが、いちばん後ろの車両に移動。
列車は、逆戻りを始める。
さきほど発車した上白滝に少し停まって、すぐに発車。
列車の交換が可能な、白滝駅に着いた。
われわれが着くと、すぐに下りの特急オホーツクが、
「遅いわい。なにしとんじゃい!」
という感じで、待ちかねたように、通り過ぎて行った。

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白滝駅

さて、われわれは、いったい、どうなってしまうのだろう。
このまま、運転打ち切りになり、白滝駅に放置されるのか。
あるいは、後続の特急オホーツクが臨時停車して、
われわれを乗せていってくれるのか。
あるいは、救援の車両がきて、もう一度、登りにチャレンジしてくれるのか。

運転士さんがやってきて、われわれにこう伝えた。
「えー、みなさんには、ここからタクシーに乗って
いただきます。タクシー代は、JRが持ちますから。」


なるほど。
それがいちばん安価で、現実的な対応であろう。
しかしながら、それだと、私は上白滝~上川間が未乗になってしまう。
「私には、普通列車による石北本線完乗という目標が
あったのですが。いったい、どうしてくれるんですか。」
と言いたかった。けど、黙っていた。

いま、それどころじゃないもんな。(笑)


運転士さんに案内されて降りると、駅前にタクシーが待っていた。
手回しがいいことである。
が、このタクシー、いったいどこから来たのだろう。
あとで、タクシーの運転手さんに聞いてみると、
村に1台しかないタクシーなのであった。
なお、地元の人は、ハイヤーと言っていた。
が、そんないいものではなく、ふつうの小型車のタクシーである。
タクシーのことをハイヤーというのは、北海道の方言なのかもしれない。

タクシーは、われわれ3人を乗せて、18時30分ごろ、
それじゃあ、行きますか、という感じで発車した。
JRの運転士さんは、頭を下げて見送る。
タクシーは白滝駅を出ると、すぐに、あたらしい自動車専用道路に入った。
しかも、無料である。
タクシーの運転手さんに聞いてみると、旭川紋別自動車道の無料区間
なのだそうだ。

われわれの乗っていた4626Dは、遠軽を16時12分に出て、
旭川に到着するのは20時05分。4時間近くかかる。
これは、途中の上越信号所で20分停車したあと、
上川でも37分間、停車するからである。
クルマであれば、自動車専用道路で、旭川まで1時間30分くらい。
まったく、勝負にならないね。

自動車専用道路の制限速度は、時速70kmであった。
運転手さんは、それを少し上回る速度で走っていた。
すると、後ろから来たトラックに、パッシングをあてられた。
運転手さんは、だまって左に寄り、先に行かせる。
トラックは、時速100kmをはるかに超える速度で走り去って行った。

旭川には、午後8時まえに着いた。
タクシー代は、2万円をかるく超えている。
私の切符は、秋の乗り放題パス (普通列車を3日間乗り放題で7,500円)。
つまり、1日あたり2,500円。
他の2人が、どのような切符を持っていたかは、私は知らない。
いずれにしても、JRとしては大赤字であろう。
なんだか、申し訳なかったな。


それにしても、キハ40はなぜ、坂をのぼれなかったのだろう。
これについては、キハの運転士さんに聞いてみたものの、
とぼけられて、はっきりと理由を教えてくれなかった。
おそらく、油分を含むなにか、落ち葉のようなものを踏んでしまって、
車輪とレールのあいだの摩擦が得られなくなってしまったのではないか。

むかしの蒸気機関車は、そういったことを防止するため、
砂箱というものを装備して、レールに砂を撒きながら走ったものだ。
けど、いまの気動車には、そんなもん、装備されていないのかもしれないな。

いずれにしても、私の普通列車による石北本線完乗は、
次回に持ち越しとなってしまった。残念である。



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