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彼女の島に行った話 [ツーリング情報]

片岡義男の小説に、「彼のオートバイ、彼女の島」というのがあるのだけど。

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角川文庫判 「彼のオートバイ、彼女の島」  表紙モデルは原田貴和子
出所:角川書店


古い話で恐縮なんだけど、片岡義男の小説に、「彼のオートバイ、彼女の島」
というのがある。正直、いまとなっては、ストーリーはよく覚えていないけど、
私にとっては、片岡義男の小説のなかでは、わりと好きなほうであった。
角川映画にもなって、原田知世のお姉さんの原田貴和子が、ヒロインの
ミーヨを演じてヌードになったのと、カワサキのW3の後ろに乗って、
「もう、最高!」と叫ぶところが印象的であった。
当時、あの映画を見て、

「そうか、そうか。カワサキのオートバイに乗ってると、
初めて会った女でも、すっぽんぽんになるし、
タンデムシートに乗ってきて、『もう、最高!』
と叫ぶのか。」


と勘違いして、カワサキのオートバイを買った男が、たくさんいたらしい。


ま、それはともかく、若い方で片岡義男をご存じない方のために、
少々解説させていただくと、片岡義男は1980年代を中心に活躍した作家で、
私の世代では、知らない者はいないくらい、ポピュラーな存在である。
1980年代というのは、「神田川」に代表されるような、70年代の貧乏くさい日本
のアンチテーゼとして、米国西海岸の中産階級の生活を思わせるような風俗が
日本中を覆っていた時代であった。そして、そういったライフスタイルをリードした
のが片岡義男であり、あるいはユーミンであったわけだ。

片岡義男の小説のなかの登場人物は、みんなリッチなものを身に付け、
生活感がまったくない、ペラペラのキャラクターだった。もちろん、片岡義男は
そういった設定を、計算ずくでつくっていたはずである。
そして、そういった登場人物たちが愛用している道具がオートバイであり、
サーフボードであり、4WDであったわけである。

少しだけ、個人的な感想を書かせていただくと、私はユーミンの大ファンである
けれど、片岡義男については、いまひとつ、ついていけないところがあった。
たぶん、パンツのことをショーツと呼んだりするようなキザさに対して、
生理的な拒否感があったからだろう。

あなたは、身の回りの友人が、パンツのことをショーツと呼ぶのを許せますか?


また、片岡義男は、読者ではない人のあいだでは、原作の小説とは違った印象
を持たれているように思われる。その原因は、角川映画になったことであろう。
当時の角川映画というのは、小説のタイトルだけ取って、実際には、原作をまるで
無視したような作品が多かった。
「メイン・テーマ」なんか、原作は4WDのピックアップとか、オートバイとか
ヒッチハイクとか、さまざまな方法で、それぞれのテーマを持ちながら
旅を続けている若者たちが、偶然出会い、わかれていく過程のなかで
ひとつずつ成長していく、という話なんだけど、映画では、そういった原作の
世界観のかけらもなかったもんなあ。

映画「彼のオートバイ、彼女の島」も、そんな感じであった。
原作の小説では、ミーヨはなんだか現実味のない、ふわふわとした感じの女性
だった。初めて会った男が、カワサキのオートバイに乗っているからといって、
「カワサキさん」と呼ぶような女が、どこの世界にいるというのか。
まあ、好きか嫌いか、あるいはついていけるかどうかはともかくとして、
それが片岡義男の世界だったんだけど、映画を担当した大林宣彦監督には、
そういった世界観が理解できなかったか、あるいは嫌いだったのだろう。
映画は、全体的には、なんだかヤクザ映画みたいな感じであった。

それでも、原作においてもっとも重要な場面である、ミーヨに、

「ねえ、私の島に来ない?」

と誘われたことにより、主人公のコウが600キロ以上もオートバイで走って、
瀬戸内海の島まで、ミーヨに会いに行くという肝心なところは、さすがにきちんと
表現されていたけど。
まあ、それがなかったら「彼のオートバイ、彼女の島」にならないから、当然か。(笑)
私は要するに原作である小説の、そのエピソードが好きなのである。
映画でも、そのあたりについては、わりと原作に忠実に表現されているので、
安心して見ることができる。


で、「彼女の島」であるが、原作では岡山県笠岡市の白石島となっているが、
映画では、大林監督の出身地である尾道に近い、岩子島(いわしじま)で
ロケが行われたのであった。

私は、その島に行ったことがある。

尾道からフェリーに乗って向島に渡って、狭い海峡にかけられた橋をわたった
ところに、その島はある。

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岩子島にて。2001年9月16日

8765007.gif  岩子島の地図をみる


まあ、なんにもない島なんだけど、狭い島だから、ロケが行われたところは
すぐにわかった。ミーヨがオートバイの練習をした小学校は、廃校になって
いたりして、それなりに変わっていたけれど、だいたい、映画と風景は変わって
いなかった。みかん畑は深い緑だし、海はきれいな青だし、これぞ瀬戸内海の島
という感じである。

なかなか、いいところだったなあ。

そのときは岩子島だけでなく、因島(いんのしま)、生口島(いくちしま)、大三島、
弓削島などをめぐった。島から島へと渡るフェリーは、オートバイと人が込みで150円
などというように、いずれも安い料金であるし、わりと頻繁に出ているから楽しめた。
尾道から、しまなみ海道で一気に四国に渡ってしまう人も多いだろうけど、
瀬戸内海の島々を、ひとつずつフェリーで渡ってまわって、ひなびた雰囲気を
楽しむというのも、また、いいものである。

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映画「彼のオートバイ、彼女の島」より  出所:角川書店


ということで、今回の記事のまとめであるが、瀬戸内海の島々にオートバイと
いうのは、なぜか、とてもよく似合うのである。島にはゆったりした時間が
流れているし、人々はみんなおだやかでやさしい。私は、機会があれば、
もういちど訪ねてみたいなあ、と思っているのである。


おまけ

・原作では、たしか、ミーヨは最後にトラックにひかれて死ぬことになっていた
はずなんだけど、映画のラストは、平和にコウと記念写真なんか撮っていた。
ハナシ、ちがうじゃーん、って感じだった。
最後にミーヨが死んで、一気に現実に引き戻されないと、たぶん作者が
書きたかった、オートバイに乗るということの意味が、よく伝わらないと
思うんだけどなあ。

・コウを演じた竹内力は、その後、「難波金融伝・ミナミの帝王」の萬田銀次郎
となった。そのギャップが大きすぎて、しばらく私はついていけなかったな。

※本文中、敬称は省略させていただきました



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